『私はこう見た、 CancerX Summit 2020 ~ビジネスパーソン編~』


下地 邦拓 (シモジ クニヒロ)
コンサルティング会社所属
官民連携プロジェクトなどに従事。以前は米国シンクタンク研究員。







CancerX Summit 2020に、がんについてまだ知識や経験の少ない私が参加して、一企業人・コンサルタントという視点から、企業においてがんに罹患した人・またはその家族の支援や体制整備を促進するために何ができるかを考え・感じたことを共有させていただきます。

~がんは個性であるという捉え方もある~
「Break the Limits」をコンセプトに掲げていたSummitでは、医療者、研究者、患者、行政、メディア等、様々な立場からがんに関わりのある人々が50名以上登壇し、がんと言われても動揺しない社会の実現にむけた、がん治療の研究開発等の概況、正確な情報を罹患者やその家族に届ける方法等について、熱い議論が繰り広げられました。そんな一日を振り返った時に、日本人の2人に1人が、がんと診断される程身近な病であり、かつ、医療の発達によりがんが付き合っていく病気に変わりつつあるこの世の中において、「がんは個性である」という内容の議論がSummitで行われていことが印象に残っていたので、そこに着目してみたいと思います。

~マニュアルからカスタマイズ対応へ~
近年、SDGsやDiversity&Inclusionの文脈から、社会として国籍・人種・性・宗教・文化・障害・年齢等、目に見える個性と目に見えない個性を認め、尊重し、高め合うことで、誰一人取り残さない世界の実現が重要である、というニュースや記事を目にしない日はありません。まさに、がんもその個性の一つと言えるのではないでしょうか。そして、そんな世界の実現に向けては、(事柄や事象にもよりますが)個性のカテゴライズに紐づく「マニュアル対応」ではなく、個性とその個性を有する人の希望と状態に寄り添う「カスタマイズ対応」が必要なのではないでしょうか。
ある企業ががんに罹患したA氏への対応を検討していると仮定します。マニュアル対応は、「がんに罹患したA氏には●●支援をする」という風になります。一方、カスタマイズ対応は、がん罹患を受けたA氏がどのような働き方(業務内容や時間等)を希望しているかに加え、がんと診断されたA氏の身体的・心理的状態を加味し、「▲▲のような働き方を希望しているA氏の、身体的・心理的状態を加味し、■■の支援をする」という風になります。ここで言う、身体的状態の把握には、企業側とA氏との対話で補える部分が多いと思います。が、心理的状態の理解については、A氏自身がコントロールできない部分があると考えられるため、イギリスの医学者であるジョン・ボウルビィ氏が提唱する、死を受け入れる際に、順不同で繰り返し訪れる3つの段階「否認と怒りの段階」・「痛み・絶望・無秩序の段階」・「人生の再編成・再投資を考える段階」のような、患者やその家族の心理的段階に応じた対応を、企業側(特にA氏と直接業務を共にする人々)が検討することが重要になると考えられます。

~攻めの発想をしてみる~
上述のようなことを言うと、企業側への負担が大きく、非現実的に聞こえるかもしれません。しかし、見方を変えて、攻めの発想をしてみると、上述の「カスタマイズ対応」は、経営者が行っている「会社の状態把握、注力領域の特定、施策検討、予算化、進捗確認、業績に応じた見直し」や、上司がコーチングの一環として行っている「部下との対話を通して目標を設定、目標達成に向けた現実とのギャップに応じた成長領域を特定、定期タッチポイントを設定、目標達成に向けた進捗を確認する」等と被る部分も多いのではないでしょうか。もし、被る部分が多いという証明ができた場合、企業は人材育成の一環として「カスタマイズ対応」に取り組む、というマインドシフトに繋がるかもしれません。その他にも、人材確保や入社後の人材定着が社会問題になっている日本において、「カスタマイズ対応」によって、様々な個性を有する人々の労働環境の改善や、その結果としての離職率の低減に繋がること、が効果として期待できると証明できれば、「カスタマイズ対応」は、企業が率先して取り組むべき事項になるのではないでしょうか。
今回のSummit参加を機に、がんに対する企業の対応等について私なりに調査してみたところ、「企業ががん罹患社員に対して行うべきこと」に関する情報は、山のように見つけることができましたが、「企業ががん罹患社員に積極的支援を行うことで得られるメリット」についてはあまり情報を見つけることはできませんでした。が、企業側の取組みを加速するには、後者の情報をより多く発信していくことも重要なのではないでしょうか。上述の内容は、がんに関する情報弱者である私の、憶測や妄想に偏って、現実的ではないのかもしれません。しかし、CancerXの皆さんや、専門家の方々と協力して、上記証明をすることで、「がんと言われても動揺しない社会」「誰一人取り残さない世界」の実現に一歩近づくかもしれないと考えています。

~さいごに~
 Summitに参加し、がんだけではなく、多くの目に見える個性と、目に見えない個性を持つ人々が、互いに認め合い、尊重し、高め合う社会の実現に向け、私にできることは何か考えることが増えました。私一人にできることは小さなことかもしれませんが、必ず何かあるはずなので、考え・行動に移していきます。CancerX Summit 2020の関係者・登壇者の皆様、本当にありがとうございました。

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