『私はこう見た、 CancerX Summit 2020 ~ボランティア編~』



当日のスタッフミーティングの様子


大阪国際がんセンター 山田眞佐美









『私はこう見た、 CancerX Summit 2020 ~ボランティア編~』

 私は大阪国際がんセンターというがんの専門病院で看護師長をしています。2008年に札幌で開催されたテキサス大学MDアンダーソンがんセンター主催の日本のがん医療従事者に向けた2泊3日の合宿研修「The Second Team Oncology Workshop 」を受講し、チーム医療とはVISIONとMISSIONに基づき、立場や肩書きに関係なく態度やふるまいで一人ひとりがリーダーシップを発揮するコミュニケーション医療であると学びました。その後もCancerX発起人のお一人である上野直人先生のご講演を学会等で拝聴し、どうやって医療を発展させるのか、そのために自分にできることは何かを考えて行動しています。

 CancerXが2019年に日本で発足したことは、上野直人先生のFacebookを通じて知っておりました。昨年は仕事の関係で参加が叶いませんでしたので、来年はぜひ参加したいと思っていました。
 がんはとても不思議な病気で、発生源は自分の小さな細胞なのに、家族や友人を巻き込みながら、予定していた生き方を変えざるを得ない強い力を持っています。生き様が変わるのです。2人に1人ががんになる時代と言われていますが、社会の中で生活しながら生きている人間の視点からがんについて語られることは、そう多くはなかったと思います。がんを体験した多くの方が感じる社会からの孤立感、否定感、無力感、敗北感、悲愴感、悲哀感、罪悪感は、がんとわかった時に本人以上に動揺したり、冷たくなったりする周囲の反応により、さらに助長されます。がんの研究は進んでいますが、実はみんながよくわかっていないのが、がんではないかと思うのです。よくわからないから恐いし不安になるし、動揺します。今まで蓄積してきたそれぞれの立場からの経験や感情を、職種や職場の枠を超えて議論し、がんになってもならなくても、幸せで豊かな人生を歩むためのスキルを獲得するために叡智を結集する、それがCancerXの役割ではないかと感じています。スキルとは教養や訓練を通して獲得した能力を意味します。よくわからないから、トレーニングが必要なのです。
 わたし達当日ボランティアは、2月2日土曜日の朝7時、日比谷ミッドタウンの1階カフェ前通路に集合しました。スタッフさんの指示に従いおそろいのTシャツに着替え、受付や誘導など役割を手挙げ式で決めていき、500人もの参加者の対応を行いました。その日初めて出会った名前も知らない者同士でも、お互いを尊重しあいながら役割遂行できた背景には、応募の段階から、なぜ参加を希望するのか、CancerXにおいて自分が貢献できることは何か、という質問に回答する過程を経て、ボランティア参加者の動機づけが高められてきたことも大きかったと考えます。これは新しくチームをつくるときのチームビルディングのスキルの一つです。百貨店の食品売り場の店員さん、製薬会社の研究員さん、がん患者向け情報発信サイトの管理運営者さん、緩和ケアの医師、臨床の看護師など、当日ボランティアの職種や背景は様々でしたが、それぞれが強みを活かしたリーダーシップを発揮し、共に闘った戦友のような気持ちで繋がったことも、CancerXのすばらしい副産物です。

 CancerXは強力なコレクティブインパクトにより、がんを取り巻く環境にイノベーションを起こすことをめざしています。コレクティブインパクトとは、立場の異なる組織(行政、企業、NPO、財団、有志団体など)が、組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチを意味します。今回のイベントに当日ボランティアとして参加して、一人ひとりの小さな決意や成功体験が、人の心を動かし、社会全体を巻き込む大きな変化につながっていくことを実感しています。2000年から日本のがん医療従事者を対象にチーム医療教育を行われてきた上野直人先生の取り組みが、医療の枠を飛び越え社会全体に波及し、同じ意思をもつ仲間とVISIONとMISSIONを共有し、連携・協力していく姿勢こそがコレクティブインパクトであり、CancerXであると考えます。

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